星を匿す雲

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【感想】十二国記・月の影 影の海:思春期に読んでおきたかった小説No. 1

小野不由美作のファンタジー小説十二国記」シリーズ第1作『月の影 影の海』についてのネタバレあり感想です。




思春期に読んでおきたかった小説No. 1

なぜこれを私は思春期に読まなかったのだろうか、と読後ひとしきり後悔した。

なぜなら、私が思春期につまずきその後も影を落とし続け現在に尾を引いている問題のひとつ、「他者から裏切られることへの恐怖」をいかに超克するかが、本作では非常に泥臭く描かれているからだ。

泥臭く描かれているところがポイントである。不思議な道具で一発で解決するとか、主人公が天才でちょろっと頑張るだけで解決する、とかのいわゆる俺TUEEEE話が私が思春期だった頃のジュブナイル向け小説(換言すればライトノベル)には数多存在していたが、あまりにもリアルが俺TUEEEEからかけ離れすぎていた私の心の拠り所にはなりえなかった。これくらい泥臭い方が、感情移入でき、陽子のように自分も頑張ろう、と思えたのではないか。

とは言っても景王になるまでには不思議な道具と仲間に助けられているしめちゃくちゃ貴種流離譚じゃねぇかと思う方もいるだろう。しかし、この小説の本質は、解説でも述べられているように、そこではない。また、中華風ファンタジーであるところでも、イケメンが大勢出てくることでもない。

この小説の本質は、陽子が恐怖を超克する過程は全て、平凡な高校生に過ぎなかった彼女自身が血反吐を吐きながら編み出したものである、ということだ。その部分はやはり、平凡な高校生であった私、他者から評価され嫌われることに過剰に怯えていた私が読めば、大いに勇気づけられたに違いない。




ツッコミ・不満点

ここから下は本作に対する細かなツッコミや不満点について述べている。

くれぐれもご留意いただきたいのだが、褒めている文章よりもツッコミを入れている文章の方が長いから本作には面白さよりも不満をより多く感じている、というわけではない。上で述べた本質の部分があまりに良い出来なので、私がその素晴らしさについてさらに稚拙な言葉を重ねるよりも実際に読んだ方がよほど有意義だと思っているのだ。

あと、今は諸事情あって気力を使い果たしていてあまり長く語れないという事情もある。よりによってなぜそんな時期にこんな重要な作品を読んでしまったのでしょうね申し訳ありません。

ということで、これ以降はあえて、ツッコミや不満点のみを書いていく次第だ。



陽子の周囲の人々のダメさ加減がテンプレ過ぎる

テンプレであった方が、読者が自分の体験したことのある状況と重ね合わせ、感情移入しやすいのは確かだが。

それにしても、こんなに分かりやすく悪辣な父親やクラスメートや教師を目の当たりにするのは、同じく分かりやすいキャラを登場させてしまいがちな小説書き(笑)として少し気恥ずかしかった。こんなやつら、現実にはほぼいねーよ! と思ってしまった。実際はもっと入り組んでいて面倒臭いものの、ここまで孤立無援の絶望的な環境ではない、と思う。

いや、もしかしたら私が鈍感で理解していないだけで、こういうのが思春期の一定数の少年少女が典型的に置かれる環境なのだろうか? だとしたら、この小説を思春期に読む少年少女は私の比ではなく、ものすごく救われるのではないか。


とりあえず私は失意のどん底にいた頃の陽子に言ってあげたかった、そいつらがダメなのは陽子が優柔不断な性格だからじゃない、元々ダメなやつらなのだと。



なんで楽俊はセルフ擬人化してしまうん?

そういう設定なので仕方ないのですけれども、ネズミの姿の方が楽だと本人も言ってるので今後もネズミの姿がメインになることが期待されますけれども。

やはり人間になれると分かるとテンションが下がるんだな~。あーやっぱり擬人化しちゃうのね、みたいな。ドラえもんやキティちゃんが擬人化した気分と言ったら若干分かりやすいだろうか。

逆にテンションが上がる人もいるっていうか結構多いんだろうけど、私としては、ネズミはネズミのままだから良いのだと口を酸っぱくして主張していきたい。



偽王との戦いを省略しないでぇ!

いやぁまさかあんなにあっさり景麒のところまでジャンプするとは思わなかった。せめて偽王と一騎打ちしているシーンくらいは読みたかった。と友達に漏らしたら、「レーベル的にそこまで詳しく書けなかったんじゃないか」とのことだった。世知辛い。あとはやはり、本作の本質は陽子の心の戦いであって、偽王との物質的な戦いはあまり重要ではない、という事情もあるのだろう。

しかし、本質的でない部分も十分に面白いので、いつか偽王との戦いが全て収録された完全版を読みたいものだ。