星を匿す雲

主にTVゲーム、アニメ、歴史漫画、史跡巡りの感想を書いているブログです。基本的に【ネタバレあり】ですのでご注意ください。

【レビュー・感想】残穢:解釈次第で際限のない恐怖を喚起するドキュメンタリー・ホラー

皆様こんにちは。赤城です。

小野不由美ホラー小説残穢』について紹介と感想を書きました。

前半はネタバレなしレビュー後半はネタバレしている感想になっております。ご注意ください。




ネタバレなしレビュー

はじめに本作のネタバレなしレビューをお伝えします。



あらすじ

小説家の「私」はホラー小説の後書きで読者から怪談話を募った。読者から届いた怪談話のうちのひとつが、奇妙に「私」の印象に残った。

差出人の久保という女性は、マンションの自室で、時折妙な音を耳にすることがあると述べる。畳の敷かれた和室の部屋で、彼女がそちらへ視線を向けていないときだけ、畳の上を箒で掃くような音がするというのだ。

それだけではない。彼女の住んでいるマンションは、いくつかの部屋で人の出入りが異様に激しい。そのうちのひとつが彼女の住んでいる部屋で、他の退去した住人たちも、やはり不気味な音や幻覚に悩まされていたことが徐々に判明する。

どうやらこの土地は、過去に何か因縁があるらしい。


久保は、この土地の過去を知るべく、周辺住民への聞き取り調査を開始し、「私」はその作業を手伝い始めた。二人で、この土地に巣食う「何か」の、ただならぬ気配を感じながら。



ドキュメンタリー物としては最後の一行まで面白い

本作は、ドキュメンタリー物のような色合いが非常に濃いです。

というのも、主人公である「私」も準主人公の久保も、心霊現象に遭って怯えたり、立ち向かったりする様子がほぼ描かれません。彼らは土地の歴史を知る人や心霊現象に遭った人から体験談を聞くことに専念しています。ですから、本作で描かれる心霊現象も、多くは体験談の語り手からの伝聞に過ぎません。

それこそが、本作独特の、ひたひたと背後に迫るような恐怖を呼び起こす要因ではあるのですが、私個人はホラーというジャンルに対し、主人公が直接心霊現象に出遭って戦うなり逃げるなりするイメージが強いので、これはちょっと普通のホラーとは違うな、と思いました。


ただ、それなら面白くないのか、と聞かれるとそうではありません。とても面白いです。

この小説は、大部分が、

  • 体験談の話し手や主人公たちの人脈を頼りに、めぼしい情報を持っていそうな人物を探し当てる
  • その人物から話を聞き取る
  • 主人公たちが情報をもとに、筋道の通りそうな仮説を立て、議論し、検証する

というサイクルで進みます。

多くの物語のように、サクサクと事件が起こったり、手掛かりが得られたりするわけではないので、非常に地味で、泥臭く、遠回りです。

しかし、研究者やジャーナリスト、警察が世に出す成果はこのような地道な作業を経てできあがっているし、普通の人の仕事や生活だって、これと似たような、ともすれば退屈な作業の繰り返しです。それを全く飽きることなく楽しませてくれるのが、この小説の凄さです。



ホラーとしては終盤に失速する、しかし見方によっては……

残念なのは、ホラー要素が終盤で失速することです。

終盤に差しかかるまでは、前述の通り、ひたひたと背後に迫るような恐怖を味わえます。しかし終盤は、話の構成的にそうならざるをえないのかな、という感じでまとまってしまいました。

したがって、ホラーとしての面白さのみを強く求めてこの作品を読むと、最後に肩透かしを食らう可能性が高いです。逆に、ホラーが苦手だけどホラーに挑戦してみたい方にはオススメです。


ただし、物語の受け取り方によっては、「いや全然失速してないし! 超怖い! むしろ読み終わってからが一番怖い!」と思う方もいるようです。というか、もしかしたらそちらの方が多数派かもしれません。どっちやねん!? と思いましたよね、すみません。私はホラーが好きだけど苦手なので、あえてその受け取り方のことは深く考えないようにしています。

ですので、ホラー要素を強くお求めの方は、そのような受け取り方を意識し、苦手な方は目を背けて単純に解釈するとよいかと思います(笑)。



ネタバレNGな人はウィキペディアは読まないで!

ネタバレNGな人はそもそも避けていると思いますが、私がネタバレNGなくせしてしばしばやらかしてしまうので、念のため。

ウィキペディアの本作の記事は、最初からネタバレ満載ですので読むのはやめた方がいいです。

私の体感では、ウィキペディアはネタバレに配慮している記事が大半なのですが、本作の記事はダメダメでしたね……。



こんな人にオススメ

本作は、ホラーがすごく苦手でない限り、どんな方にもオススメです! 特に、

  • ちょっと変わったホラーが読みたい
  • ドキュメンタリーが好き
  • 先祖探しの趣味がある
  • ファミリーヒストリー』を観るのが好き

という方は、ぜひ読んでみてください!







読んだことのある方は、よろしければこの後のネタバレあり感想も覗いていってください!
































※この下からネタバレあり感想が始まります。未読の方はご注意ください。





























ネタバレあり感想

以下では本書についてのネタバレあり感想をお伝えします。


  • とても面白かったです
    ネタバレなしレビューにも書いたように、とても面白かったです。私、大事件が起こってワーキャーする系の話も嫌いじゃないんですが、こういう淡々と話が進んでいく系の話の方が好みなんです。

    あと、私は先祖探しと称して昔の先祖の家の跡地を探したり、その近所の人に話を聞いたりした経験があるので、戦前パートあたりからそのときのことを思い出してめちゃくちゃ楽しかったです。


  • この本、書いて・読んで大丈夫だったんですか??
    ネタバレなしレビューで書いた「受け取り方によっては怖い」の怖い受け取り方の話です。

    怪談は語ろうとするとヤバいことが起こるから怪談なのだ。って言ってたけど「私」さん、思いっきり最初から最後まで語ってますよね。しかも本にして出版してますよね。

    え、これヤバくない? 残穢が世界中に広まらない!? 私の家でまでなんか始まったら嫌だよ!?? ヒエェ誰だよ終盤はホラーが失速するって言ったの私だよチクショウ。

    いや、もちろん、実際の話じゃないんで。あくまで架空の話なんで。それに実名は伏せてるって書いてあるし。うん、全然、大丈夫!!(ガクブル)

    しかし、あそこまできっちりした残穢の仮説を立てられると、この物語自体は架空の話だけど、現実に似たようなこともありう……これ以上考えてはいけない


  • 分かりやすい恐怖感は、確実に失速する
    受け取り方によっては読了後が最も怖い本作ですが、物語の終盤では主人公たち自身の身の回りの心霊現象はなくなってしまうので、分かりやすい恐怖感がなくなってしまうのは確かです。そこが惜しいですね。「私」のところに「今でもときどき電話がかかってくる」とか「今でも飼い猫たちがときどき宙をじっと見つめる」とかあったら、また違ったんですけど。

    ただ、「本当に穢れが原因なのか、心霊現象なのかさえ実は定かではない」というぼやっとした結論にすることで、読者にひそやかな恐怖を掻き立てる狙いがあると思うのです。だから、ぼやっとさせるために、あえて主人公たちを穢れから解放したのかもしれません。


  • 残穢の穢れの出どころが意外と近代だった
    もうひとつの不満点はこれ。もっと古いともっと怖かったんじゃないかな。戦国時代とか。あるいは、かえってもっと最近の、昭和・平成の凶悪事件の被害者とか、戦時中の空襲の犠牲者とかなら分かりやすい。

    単に自分の個人的な感覚なんですけど、明治時代ってそういう心霊的なイメージが想起しづらいんですよね。もっと古い時代ほど頻繁に物語が作られていないし、肉親がバリバリ生きていた時代でもないので。もしかしてこれは作者と私の世代の差なのか? ひと世代違うと明治時代の昔話とか聞いてただろうしなあ。

    ……まあ、どの時代が出どころだろうと怖いもんは怖いですけどね。ええ。


  • 正直梶尾氏の謝罪四連続も怖い
    と思いませんでした!? あれ絶対体験したら怖いでしょ。私だったら「恨まれてた!?」って考えちゃいそう。


  • 友三郎が一番怖い
    この話に出てくる心霊現象は無論全部怖いですが。ぶっちぎりで一番怖いのは床下を這い回り悪意の種を蒔いて自転車でぶつかってきて不気味な電話をしてくる友三郎。バイタリティありすぎ。自転車と電話は実は全然関係ない偶然の何かだったとしても、もうそこまで想像させるのが怖すぎ。

    床下をついてこられるっていうのが特に嫌ですね。隙間を作ると友三郎に付き纏われるからあえてゴミ屋敷にして隙間をなくしたおじさんや、床下の何かに話しかけてたおばあさんの話なんかが、積もりに積もって恐怖を増幅している。自分が歩くたびに床下で何者かがついてきたらと思うと……うわあぁぁぁぁ……。


  • 残穢で死んだらどこへ行くのか
    死んだらそれで終わりかもしれませんが、もし死後の世界があったとして、残穢で死んだ人は梶尾氏含めてまともなところに行けるのか、がちょっと気になるところです。残穢もがっつり影響を受ける人、まるで影響のない人さまざまなようですので、例え残穢で死んだとしても、新しい怪異になるかまともなところに行くかもさまざまなのかな。