星を匿す雲

主にTVゲーム、漫画、小説、史跡巡りの感想を書いているブログです。基本的に【ネタバレあり】ですのでご注意ください。

【ネタバレあり感想】シャイニング:質の違う3つの怖さを味わえる傑作ホラー小説

皆様こんにちは。赤城です。

ネタバレありスティーヴン・キング作の小説『シャイニング』の感想を書きました。未読の方はご注意ください。




読んだきっかけ

近頃、小説の書き方のハウツー本を読み漁っていて、キングの『書くことについて』を読みました。

内容が非常に分かりやすく、感銘を受けまして、彼の書いた小説はどんな感じだろうと興味を持ちました。


実は中学生くらいの頃に映画『スタンド・バイ・ミー』にはまっていました。

自然が特別美しいわけでも観光資源があるわけでもないただの田舎に住む子供たち、というのが、自分の境遇と重なりまして、その田舎の中でできる精一杯の冒険をしている感にワクワクしていました。あと、リヴァー・フェニックスが好きでした。

それで、原作になったキングの同名短編を含む短編集は読んだことがあるのですが、

なんか大人になったゴーディーが自作の官能小説(?)を絶賛しているくだりで「あっこの人はそういう作風なわけ?」と勝手に決めつけてドン引きして以来彼の作品は読んでおりませんでした(笑)。映画はそこまで再現していなくて、完全に子供たちのほろ苦い青春映画という感じだったので、びっくりしてしまったんですよね。そんな細かいところで諦めるなよ! と思いますけど、まあ子供ですから。

このたびは、私も成長して多少色んなことに耐性は付いているだろうということで、挑戦してみました。




感想

以下、感想です。微妙に映画版のネタバレもあります



心理描写の緻密さに圧倒される

この小説を一言で表せと言われたら、ありきたりですが上のように表すと思います。登場人物の怒りや狂気や不安定さが、傍観者として眺めているのではなく、自分に起きていることのように感じられました。


特に、主に下巻で、ジャックが過去を思い出したりホテルの怪奇現象に遭遇したりして、徐々に徐々に家族不信に陥り、しまいに自我を失ってしまう流れには、鬼気迫るものがありました。何も悪くない妻子に暴言を吐いたり、襲いかかったりも含めて、全部心にダイレクトアタックしてくるので、SAN値がどんどん削れました。彼が不幸な人であることは理解しているし、その上で冷静に同情・共感するべきなのでしょうが、正直「こいつは全きクソ野郎だからこんなことをするのだ」と強く思い込んで読まないとつらくなってくるレベルの迫真ぶりでした。

上巻は読み進めるのに時間がかかりましたが、下巻はちょっと読んで残りは明日以降と思っていたのに、妻子はジャックから逃げ切れるのかと気になって気になって、一気に全部読んでしまいました。



前半と、後半と、終盤の、怖さの質の違い

前半と、後半と、終盤で、怖さの質が違うなあと思いました。


前半は家庭環境が不穏で怖い。この不安定すぎる父親がいれば、怪奇現象とか何もなくても惨劇が起こりうるよなって思った。キューブリックの映画版は、この怖さの印象がすごく強い。観てないですけど

後半は普通にホラーらしく怪奇現象で怖い。水死体とかライオンとかもうなんか色々こっち来んな。ページめくるのが怖かった。

終盤になるともう怪奇現象は当たり前になってくるので、スプラッターで怖い。ウェンディ、よく生き延びたなって感じ。


う~ん、ひとつの作品で3つの怖さを楽しめるなんて、お得ですね☆



3人ともちょっとおバカ

ところで、「何も悪くない妻子」とは言ったものの、3人全員、そりゃホテルの悪霊たちも調子乗るわと思う程度には行動がアホで、それもまたSAN値を削ってくれました。危険だと分かっているところにわざわざ出向くなよ……。

特に、水死体に首を絞められたにもかかわらず、ハローランさんに警告されていた児童遊園に行くダニー。なんなんだ、君は。

まあきっと悪霊たちの発しているエネルギーに影響されたかなんかで仕方ないんでしょうけど。ハローランさんはアホじゃなくて良かった。



キューブリックの映画版はたぶん観ない

初めはキングの小説ではなく、キューブリックの映画版を観ようかなとも考えたんですけど、以前映画版の『2001年宇宙の旅』を観た時マジで意味が分からなくて原作(?)小説を読んでやっと分かったから、これもきっと同じだなと思って小説を読みました。

キング氏はキューブリックの映画版が大嫌いらしいですね。「え、すごく評判いいのに、なんで?」と思いましたが、某Wikipediaの『シャイニング』の記事を読んでそりゃそうだよねってなりました。

いや、あの改変は本当にありえない。もう設定だけ借りた別物やんけ。一番ダメだったのはハローランさんが死んでしまうところです。ハローランさんファン(私含む)は大激怒でしょう。リヴァイを謎の日本人に挿げ替えた実写版『進撃の巨人』並の暴挙やで。


てなわけで、たぶん私はキューブリックの映画版は観ないと思います。少なくとも、小説『シャイニング』を実写化したものとしては観ない、別物として観る。あれはあれで、ホラー映画の金字塔と言われているみたいですからね。まあ、『宇宙の旅』を理解できなかった下賤の民の私に合うかどうかわかりませんが。



続編って……面白いのか??

2013年にまさかの続編小説、2019年にその実写化映画が公開されたそうです。

40年後のダニーがオーバールックを再訪する話……? う~ん、面白いのか?


私、ダニーには悲しい過去を乗り越えて、逞しく幸せを掴んでほしいと思ってるからなあ。ハローランもウェンディも、ジャックだって草葉の陰できっと同じことを、私よりももっと切実に願ってるじゃん? だからこういう「過去のトラウマのせいで人生どん底です、このたびそのトラウマを掘り返しに参りました」的な続編は嫌ですね、そこまでひどいか分からないけど。例えハッピーエンドになるのだとしても、それまで不幸せだったっていうのが嫌です。

正直、キューブリック版よりも読む気にならないかもしれません。これが噂の「公式が解釈違い」ってやつか。とりあえず『シャイニング』の原語版とか他に評価の高い作品とか読んでからどうするか検討してみます。



余談:翻訳に対する非常に細かなツッコミ

この翻訳家さんはすごいベテランの方らしいのですが(ろくに本を読んでいない私でもデジャヴのあるお名前なので。経歴調べたらすごかった)、時代が古いせいなのかなんなのか、時々単語の訳が不自然でした。なんでそれをカタカナ語のままにした? 逆になんでそれを無理に日本語にした? という感じの。


一番印象に残ったのは「エレクション」。どこで出てくるかというと……ご興味のある皆様はこの小説をぜひ購入するなり図書館で借りるなりして血眼になって探してください(笑)。

これ、選挙の意味でも別の意味でも普通に日本語にしないと不自然じゃないの? と思いましたが、当時はエロ用語の検閲とかあったんですかね。よく分からん。