星を匿す雲

主にTVゲーム、漫画、小説、史跡巡りの感想を書いているブログです。基本的に【ネタバレあり】ですのでご注意ください。

【ネタバレあり感想】傲慢と善良:「ピンとこないので結婚しない」という病

皆様こんにちは。赤城です。

ネタバレあり辻村深月作の小説『傲慢と善良』の感想(というか、感想にかこつけた婚活に関する自分語りになってます、すみません)を書きました。未読の方はご注意ください。




「ピンとこないので結婚しない」という病

これ、恋愛小説というより、結末以外はものすごく解像度の高い婚活者たちのセミドキュメンタリーだよなあ。

そう思うのは、私が現役の婚活者だからだろう。

この小説を読み、感想を書いている今は、第二ラウンドの最中。第一ラウンドはオファーがいっぱい来るウッハウハな時期だったにもかかわらず撤退し、苦戦を強いられる年齢になってから第二ラウンドに復帰したクチである。

ちなみに第一ラウンドも第二ラウンドも、主な手段は結婚相談所と知人からの紹介だ。アプリを使わないのかって? 一時期使ってたけど、本気度低い人が混じってるし、経歴詐称とか平気でするし、会うまでにメッセージのやり取りするの疲れるから無理ですね。


そんなわけでこの小説、架にも真実にも共感しまくりだったのだが、特に思い当たる節があったのは、架と真実それぞれが、過去の婚活の相手に対して「ピンとこない」ので「結婚したくない」と感じたことを思い返すくだりだ。

いや~それね、私も婚活第一ラウンドで何度も経験した! 真実みたいに、「そんなふうに感じるお前自身は何様なんだよ」と、自分の傲慢さを理解はしていて、この相手を好きになれたらどんなにいいだろう、この相手を好きになれる人が本当に羨ましい、と思うのだけど、それでも「ピンとこない」のは致命的だと思い込んでいるので、交際を終了させてしまう。最終的には、「私にはピンとくる人なんていないんだ。もしいたとしても、私には手の届かない高嶺の花だろう。だったら結婚しなくてもいいわ」と思って婚活市場から撤退してしまった。

結婚相談所の小野里は、現代の婚活者は、結婚の前提として恋愛を求める人が多く、自分の値段(ほとんどの場合、高く見積もりすぎている)に見合った素敵な恋愛ができそうもない相手に対し、この人ではない――「ピンとこない」と思って、交際を終了してしまう傾向があると言う。

「婚活が難航する人は自分の値段を高く見積もりすぎている」というのがこの小説の感想では頻繁に取り上げられる部分で、私も心にグサッと刺さったけど、私にはその前段階の「そもそも最近の人は結婚相手に『ピンとくる』こと=恋愛を求めすぎている」という示唆もすごく納得感があった。私が婚活第一ラウンドから撤退したのは、まさに「恋愛できない相手とは結婚できない」という強い思い込みがあったからだ。

この、言うなれば「ピンとこないので結婚しない病」は、現代社会において、恋愛と、恋愛した末の結婚が過剰に持て囃され、恋愛感情抜きの交際や結婚を多くの人が心のどこかで軽蔑していることが原因ではないか、と私は思う。架も真実も、恋愛結婚ができないことに負い目を感じる描写があった。私も、婚活第一ラウンドでは、恋愛結婚した友人たちに比べて、私はなんて劣った人間なんだ、と思ってしまうことが数えきれないくらいあった。


私が「ピンとこないので結婚しない病」を発症していたと自覚し、「つーか恋愛と結婚って別物でよくね? 婚活もそういうスタンスで再開するか」という境地に至ったのは、自分はフィクトセクシュアルかアセクシュアルかもしれないと疑い始めた頃のことだった。そもそも、私が婚活を始めたのは、私の新しい家族になってくれる人を見つけたいと思ったからであって、そこに恋愛が絡もうが絡むまいが、最終的に家族になれさえすればどうでもいいのだ。

こうして開始した第二ラウンドでは、「ピンとこないので結婚しない病」を発症せずに活動できている、と自分では思っている。しかし、相手から「ピンとこない」的な理由で交際を終了されることもあり(本当の理由は別にあるのかもしれないけど)、前途は多難だ。

あ~あ、比較的ヌルゲーなはずだった第一ラウンドの時点でこの境地に至れていたらよかったのにな、金居や金居の妻やアユみたいに。と思ったけど、彼らは私のように恋愛と結婚は別物と考えたのではなく、自分に正確な値段を付けることができていて、相手に「ピンときて」結婚したのかもしれない。……やはり、恋愛結婚ができる人たちへの劣等感はまだ拭いきれないと感じる。




それはそうと、ドン引きポイントも多い主人公2人

架と真実には共感しまくりだった、と書いたが、

  • 30代も半ばに差し掛かろうかという真実を2年も待たせる架
  • アユからの結婚したいという申し出を重いと感じて拒絶する架
  • 他の多くのカップルのように、架から自然と結婚の申し込みをしてくるのを期待して、せっつくこともなく待ち続ける真実
  • 「ピンときた」架と付き合っていることに舞い上がってインスタを更新しまくる真実

このあたりは、恋愛至上主義にかぶれていればこうなるのも仕方ないと、彼らを昔の自分と重ねて庇いながらも、ドン引きした。私は、架の女友達の、自分たちが恵まれていることに気づかない(あるいは気づいているけどそんなの努力でどうにかできると思っている)まま正論を振りかざして余裕ぶっこいている感じが大嫌いだが、上記の言動に対する彼女たちのツッコミは非常に的を射ていると思った。