星を匿す雲

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主にコンシューマゲーム、アニメ、歴史漫画、史跡巡りについて。基本的にネタバレあり。

【紹介・感想】死神の精度:風変わりな死神と過ごす、最期の7日間

皆様こんにちは。実は今、私は「積ん読消化大作戦」を実行しております。その一環として伊坂幸太郎先生の『死神の精度』を読んだので、感想を書いていきます。
前半はネタバレなしのレビュー的な感想、後半はがっつりネタバレしている感想になっております。ご注意ください。




ネタバレなし感想

爽やかで切ない、最期の7日間

事故や殺人などの不慮の事態によって引き起こされうる死。それを実行するか、あるいは見送るか、対象となる人間ひとりひとりについて判断を下す奇妙な存在が「死神」。
死神は対象者に死がもたらされる直前の1週間、対象者と接触し、死を与えるべきかを見極めます。死神が「可」と判断すれば対象者には8日目に死が訪れ、「見送り」と判断すれば天寿を全うできることになるのです。

この短編集では、「千葉」という死神と、彼の出会った6人の死すべき運命にある人間たちの交流が描かれます。
千葉は死神の仕事の一環として対象者とその周囲の人々と親交を深め、色々なワガママを聞いていきます(笑)。彼は決して、対象者の残り少ない人生をより良いものにしようなどという臭い理念から彼らと接触しているわけではありません。生真面目なためただ単に「仕事だから仕方なく」というスタンスで対象者に付き合っているのですが、結果として、それが対象者の最期の数日間を充実したものに変えていきます。

物語は千葉の一人称視点で極めて淡々と進みます。彼は滅多に感情を動かさないため、その語り口の中に分かりやすい、お涙頂戴的な盛り上がりはほとんどありません。
しかし、千葉の平坦な描写の向こうからは対象者たちの喜び、嘆き、驚き、怒りなどの思いが生き生きと伝わってきます。(一部を除く)各話のラストシーンで、私はじんわりと胸を打たれました。


どの話にもちょっとした伏線がある

ミステリ出身の伊坂氏らしく、どの話もひとひねり加えられています。最後に「あーそういうことだったのね!」と驚き、スッキリ感を味わうことができました。
特に3編目の吹雪に死神は吹雪で周囲と孤立した山荘で殺人事件が起きるというまんまミステリな筋書き。犯人は誰なのか、千葉と彼の担当している対象者はどうなってしまうのか。ドキドキしながら読みました。


朴訥な死神・千葉の愉快な日々

巧みな話の展開と伏線の張り方に加え、千葉のコミカルな個性もこの物語の魅力の1つです。

まず、人間界(日本)の常識や微妙な言葉のニュアンスを知らなすぎて面白い。作中、些細な表現について逐一質問したり頓珍漢なことを言ったりして対象者を困惑させる描写が多数あり、思わず笑ってしまいました。話し方や興味の方向性が寄生獣のミギーに似ているような気がします。無機質だけどなんか憎めない感じ。

それから、異様にミュージックが好きなところも良いです。死神はなぜか皆、人間が作り出すミュージック(ロックでもポップスでもクラシックでも)に惹かれ、仕事の合間に無我夢中で聴きます。もはやミュージックを堪能する合間に仕事をするようなものではないかとのこと。実際、千葉も暇さえあればミュージックを求めてCDショップやらラジオやらにかじりついています。最初のうちは仕事しろよと思っていましたが、あまりに無邪気に楽しんでいるものでだんだんかわいくなってきます(笑)。「音楽」ではなくあえて「ミュージック」と呼んでいるところもツボです。


以上、『死神の精度』は胸にしみる感動にちょっとしたミステリ、それに笑いどころまで用意されている良作でした。
まだ読んだことのない方はぜひ一度読んでみてください。読んだことのある方は、さらっとしか書いてないですがネタバレあり感想も覗いていってください。

























※この下からネタバレあり感想が始まります。未読の方はご注意ください。




ネタバレあり感想

全体

恋愛で死神以外は、あえて最期の瞬間まで描かないで余韻を残しているのが趣深いです。この後何が起こるか考えると胸が痛みますが、物語で見えている限りの彼らの最後の姿はとても輝いているから、きっとなんだかんだ幸せに亡くなったんだろうなあと思います。


死神の精度

CDショップで出会った同僚と何を話すかと思ったら「このアルバムがいい! この歌手を発掘してきたプロデューサー最高!!」おまえらいったい何しに来てるんだ
「見送り」になるのは全編を通して彼女だけなんですよね。どんだけミュージックに命懸けてるんだろうか。


死神と藤田

私はこの話が『死神の精度』の中で一番好きです。
なぜなら、最後の3ページで、本人は登場していないにもかかわらず藤田がどんどんかっこよくなるから。テンションの盛り上がり方が半端じゃなかった。明日死ぬ運命にある藤田は、しかし、今日のこの絶望的に不利な状況を絶対に大逆転勝利で終わらせることのできる不死身の男でもあるのだ。燃えるぜ!!
そしてまた、この後のことを考えると少し切なくなるのも良いです。翌日、阿久津は彼の不死身のヒーロー・藤田の死を受け入れることができるのでしょうか。阿久津のことだから悲観して生きていけないなんてことはないだろうけど、藤田の生き様をしっかり胸に刻んで生きていってくれることを祈っています。


吹雪に死神

ネタバレなし感想で(一部を除く)と書いたのはこれのことです。
冒頭から結末まで推理小説の常套句を使いまくり、かつ、それを千葉たち死神の余計な言動でややこしくしていくギャグでした。
1日目は一晩中ずっと覗き穴から廊下の様子を観察してたのに2日目はラジオを見つけてひたすら聴き入ってたから何も分からないとか推理小説の登場人物として色々おかしい。そして千葉の立場と事件の真相がとあるアレのアレになっていて面白い。


恋愛で死神

最後のシーンが切ない。同じ音楽の同じ箇所を好きだと分かった彼女の喜びとその後に待ち受ける悲しみが手に取るように伝わってきました。これだけ感性が近いというか、鏡写しのような人と出会えたと分かったのに、その直後に永遠の別れが訪れるとは……。千葉は配慮してやれよと思ったんだけど、いずれにせよ癌で余命何ヶ月の命なんですよね。
それはそうと、「ミュージック」と声に出したのは笑った。千葉さん、完全に変な人である。


旅路を死神

いちいち「この人間は愚か極まりないな」みたいなことを考えながら恐怖も同情もなく付き合ってあげて、いつしかカウンセラー役になっている千葉の面白さ。そしてそれに森岡が救われていくという構図の清々しさが良かったです。
たびたび他の作品の話になってしまって申し訳ないのですが、この話が一番ミギー感がありますね。誘拐犯(と森岡が思い込んでいた)に殴られている時とか。「どうした、もっと殴っていいぞ」的なことを言っているのがおかしい。


死神対老女

途中で死神の精度から50年くらい経過しているのが分かって大変驚きましたが、最後の最後で更にびっくりさせられました。この人朝美さんだったのか!! 死神と縁ありすぎやん、朝美さん!!(泣) そりゃ何度も大切な人が亡くなっていたら死神の存在にも感づきますよね。彼ら結構目立ちますもん(笑)。
最後に空が晴れたのは、何度も死神に会ってきた朝美さんに備わった特別な幸運によるものなのでしょうか。眩しいのと嬉しいのが似てるって表現がとても素敵だと思いました。




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