こんにちは。赤城です。
印象派の画家たちと恋愛できるPC乙女ゲーム『恋の筆触分割』(こいのひっしょくぶんかつ)をプレイしたので、紹介・感想を書きました。
えっなんでこれ全て無料で配布してるの? ってくらい面白かった。もっと有名になってしかるべきだと思います。乙女ゲー好きな方ならプレイして損はないです。
ネタバレなし紹介
概要
『恋の筆触分割』は、多摩美大の学生さんが制作し、2013年から大学祭で販売していた、Windows/Mac用の女性向け恋愛アドベンチャーゲームです。2016年からは公式サイトにて無料配布を開始しました。タイトルの「筆触分割」とは、印象派の技法のひとつです。絵の具の色を混ぜ合わせず、原色のままキャンバスの上に置いていきます。そうすることで、絵全体が明るく見えるようになる効果があります。
あらすじ
主人公・日向葵(名前変更可)は、美大受験に失敗した19歳のフリーター。ある日訪れた印象派の展示会で、一枚の絵を見た途端、気を失います。目覚めると、彼女は不思議な美術学校にいました。そこでは、印象派の画家と同じ名前の少年たちが学園生活を送っていたのです。
クラスメートはゴッホとゴーギャン。
同学年にはモネとルノワール。
先輩はマネとドガ。
ともに過ごすうち、主人公は彼らの美術への思いや理想、葛藤を目の当たりにします。それはまた、主人公自身の美術に対する姿勢をも変化させていくことになります。
学園生活の終わりに彼らが選ぶ道は、いったいどんなものになるのでしょうか?
……とまあこんな感じで結構美術系の雰囲気たっぷりの世界観ですが、分かりやすく噛み砕いて説明されるので、詳しくない方でも心配ご無用です!
登場人物紹介
主人公以外は史実の人物です。そして本編の攻略対象は全員有名な画家です。主人公
美大受験に失敗し、自分の才能や方向性に悩んでいるという実にリアルな設定。心を抉られます。さすが多摩美大の学生さんたちが作ったゲームです。攻略対象
全部で6人います。フィンセント・ファン・ゴッホ
見た目も性格もかわいらしいので本作の癒し枠かと思いきや、屈指の鬱枠。まあ、史実のことを思い出せばむべなるかなという感じがします。
ポール・ゴーギャン
不愛想で寡黙で口下手。それがゴッホとの間にしばしば深い溝を生じさせる結果となります。史実のゴッホとゴーギャンの共同生活の顛末を知っていると、「ははぁこれがね」と思います(笑)。
クロード・モネ
めっちゃいい奴。ストーリーもとても爽やか。
ピエール=オーギュスト・ルノワール
乙女ゲーだと必ず1人はいるプレイボーイ枠。それでも絵画に対しては真摯。
エドゥアール・マネ
安定感のある頼れる先輩。しかし個別ルートに入ると意外な一面が明らかに。
バッドエンドはなかなか刺激的。
エドガー・ドガ
冷静な皮肉屋、かと思いきや、結構チョロいツンデレ。その絶妙なチョロさに終始ニヤニヤが止まらない。
本作で一番オススメのキャラです。
その他のキャラ
テオドール・ファン・ゴッホ
フィンセントの弟。子供なのになぜか校長をやっている。ブラコン。ファンディスクでちょっとだけ攻略できる。
ベルト・モリゾ
主人公の女友達。気が強い。マネとは師弟のような関係。メアリー・カサット
主人公の女友達。天然。恋バナが大好き。ドガとは兄妹のような関係。カミーユ・ピサロ
担任の先生。主人公が異世界から来たことを唯一知っている人物。優しい。『恋の筆触分割』の魅力
恋の筆触分割は、印象派の巨匠たちとの学園生活を通して美術の楽しさや面白さを伝えたいという思いから制作されたそうです(公式サイトより引用)。
その思惑通り、私はこのゲームをプレイして「美術って楽しそうだな」と感じました。絵は描けないし知識もないしで、絵画鑑賞なども敬遠していたのですが、ちょっと一歩踏み出してみようかと思えるようになったのです。
皆様もこのゲームをプレイすればきっと同じ感想を抱かれることと思います。なぜなら、以下のようにたくさんの魅力があるからです。
登場人物の考え方が興味深い
主人公や他の登場人物が、極めて美術系の人っぽい物事の捉え方をするのが面白いです。恋愛するときはちゃんと恋愛しますが、美術に関する話題になると、技法や構図、題材、作品の発表形式などについて真面目な意見交換を始めます。それは私のように美術に造詣の深くない人間にとっても大変興味深いものでした。「へー、美術系の人ってこんなふうに考えてるんだ!」と感動しました。
友人たちとの交流が未来を生み出す
ほとんどの登場人物のストーリーは、彼らが世間からの評価にいかに向き合うか、がひとつの軸になっています。彼らは現在では多くの人に認められる画家となりましたが、史実ではその革新性を評価されず、苦しんでいました。このゲームでは、史実の彼らの苦悩をなぞりながらも、主人公や友人たちと交流する中でそれを乗り越えていく過程が緻密に描かれています。
さらに、主人公もストーリー開始時点では自分の絵や人生の方向性が定まらないことで悩んでいますが、彼らと交流するうちに影響を受け、気持ちを整理していきます。そして、最終的にさまざまな進路を選ぶことになります。純粋に主人公の成長物語として読んでもかなり面白いです。
スチルが良い
ストーリーを彩るスチルの多くは、柔らかく繊細なタッチと色遣いで描かれていて、その場の情景や登場人物の感情を優しく包み込むように伝えてきます。ぜひ、この素敵なスチルを全種類コンプリートしていただきたいです。
ドガの破壊力が半端ない
登場人物紹介のところで一番のオススメと書かせていただきましたドガは、私が不覚にも久しぶりにキュンとしてしまったキャラです。私、乙女ゲーは「なるほど、秀逸な人物造形だ」「展開がドラマチックだな」などと客観的に分析して楽しむ人間なのですが、ドガに関してはそんな余裕がありませんでした。
なんというギャップ萌えの塊。初対面はめちゃくちゃ塩対応なのに会いに行った瞬間ボロを出すチョロさ加減はなんなんだ。
ツンデレだけど、好意を持ってるのがすんごく分かりやすく出ていてニヤニヤしてしまう。
そして敬語とタメ口の混在の仕方が実に理想的。素晴らしい。最高オブ最高。
美術のことが何も分からなくても大丈夫! あなたも『恋の筆触分割』でドガに会って身悶えしましょう!
紹介は以上です。興味を持たれた方はぜひ、下記の公式サイトからゲームをダウンロードしてみてください。
※ダウンロードに必要な動作環境については、こちらをご参照ください。
以下では、プレイ済の方向けにネタバレありの感想を書いています。短いですが、ご興味があったらどうぞ。
ネタバレあり感想
各ルート+ファンディスクの感想を書きました。初めの方でクリアしたルートは記憶があやふやになっているため、文章量に差があります。ご了承ください。ちなみに私はモネ・ルノワール→フィンセント・ゴーギャン→マネ・ドガの順に攻略しました。
フィンセント・ゴーギャン編
見た目から安全牌だと思っていたら一番鬱なルートだった。フィン君いきなり情緒不安定になるんだもん怖い怖い。調べたら史実のゴッホもこんな感じだったみたいですね。ルート中何回も喧嘩しては仲直りしてるのがゴッホとゴーギャンらしいなぁと思いました。史実ではこのまま決別してしまう2人が主人公の仲立ちによって友情を維持し続けるのが胸熱でした。
弟君はただの隠し攻略キャラかと思いきや黒幕だったから腰を抜かしました。まあ悪い表情の似合う顔立ちではあるけどさ。後述しますが私はむしろバジールの方がいつか豹変するに違いないと信じて疑わなかったです。結構あっさり引き下がっちゃうので種明かしルートとしてはちょっと消化不良だったかな~。
モネ・ルノワール編
バジールが何食わぬ顔していきなり物語に割り込んできた1周目の衝撃は多分一生忘れられない(笑)。こいつ絶対黒幕だろ、つーかバジールって誰だよとか思ってました。マジでごめんバジール。普通に実在の人物でモネやルノワールの友人兼支援者でした。
バジールはバッドエンドでしか結ばれないのが悲しかったです。立ち位置的に仕方ないけどね。他のルートでは一切出てこないのも悲しい。毎回幸せにしたくなるけどこいつが幸せになったらお話的には不幸せなんだよなという葛藤がすごかった。
モネとルノワールの細かい話は、プレイしたのが一番最初かつバジールショックが強すぎるためあまり覚えていなくてですね、本当に申し訳ありません。モネがすごく青春だったのはおぼろげながら覚えてる。あとはやっぱり2人のバジールとの関係性が話の肝だったこと。
どこまでもついて回るな、このバジールという男は。好きです。
マネ・ドガ編
3つのルートの中では、恋愛色も一番強いけど、美術的な考え方や価値観も前面に押し出しているルートだと思いました。伝統を変えるためにサロンに挑戦し続けるマネと、伝統はもはや無視して新しい評価軸を作り出そうとするドガ。全く正反対の彼らが語り合い、自らの思想を明確にしていく過程が描かれていて、大変読みごたえがありました。
また、女友達枠のモリゾとカサットの出番が多く、彼女たちの考え方をちょっとだけ知れたのも嬉しかったです。モネとルノワールのルートでも独立展がらみで一緒に活動はしますが、あまり多くを語っていなかった気がするので。
ドガ
さて、真面目な話はここまでにして。ドガのことを語らせていただきたいと存じます。ドガはまず、ちょっとスカした普段の表情とマネとかにからかわれたときの赤面した表情のギャップがやばいです。実にかわいらしい。さらに、ときどきタメ口になる敬語キャラって性癖ど真ん中なんですよ本当にありがとうございます。付き合い始めてからはときどき敬語のタメ口キャラになるのもいい!!
あと、前期で主人公が荷物を運んであげて、お礼にゲルボワで何かおごるよって言われるシーンあるじゃないですか。マネがひょっこり出てきたときの残念そうな雰囲気といったらたまりませんよね。
後期もお化け屋敷の台詞とかいちいちあざとすぎてもう……なんなんだこのキャラは……!
まぶしがり症との折り合いの付け方もよかったです。例えドガの目が完全に見えなくなったとしても、他の感覚で補うことはできるし、良い影響を与え合える大切な人だからずっとそばにいる。って、主人公めちゃくちゃかっこいい! そしてドガが最終的に彫刻の方に進むのも、主人公に背中を押されて前向きな選択をしたからなんだろうなと思えて感動します。
てかそもそも、目が見えなくなる前に月明かりの下で主人公の姿を見ておきたいとかロマンチックすぎるだろ! ときめきが止まらないよどうしてくれるんだ。
マネ
ドガの項でだいぶ興奮してしまったので、マネの項はシンプルにいきます。表面上は自信満々な態度を取っていて安定感あるな~と思っていたけど、一皮剥けばお父さんのためにサロンに固執しているとか、不安で心が折れそうだったとかの、まさかのヘタレっぷりは衝撃でしたね。
まあでも、サロンを変えたいという気持ちは、決してお父さんの存在だけがモチベーションになっていたわけではないんだよね。それ以前に、本当に絵を描くことが好きだからお父さんと対立してしまい、サロンを目指すことになったのだし。だから、彼の思想や価値観自体への尊敬の念は、ヘタレであることが分かっても変わりませんでした。
しかしバッドエンドは怖かったですね。典型的な共依存DVですね。糖度は飛び抜けて高かったけど。プレイするゲームを間違えたかな? と一瞬思いましたよ。
カオスエンド
公式サイトの攻略チャートを見て結構簡単に辿り着くことができました。位置的にドガのバッドエンドと思いきやカオスエンドだったのにはワロタ。ドガさん、やはりあらゆる意味でチョロい。
完全に恋愛脳な主人公。マネとドガに取り合いされるだけでおいしすぎるし普通にエンディングに入る、かと思いきや、突如フィンセントとゴーギャンのことを思い出す(笑)。いやそれ別に脈ありなわけでは……とツッコミを入れる暇もなく、モリゾやカサットにまで魔手を伸ばす。まさかの百合含む逆ハー(?)エンド。遊び心が楽しいです。
ファンディスク
いわゆる『恋の筆触分割 スペシャルエディション』というやつですよ奥さん。えっ、本編はプレイしたのにそっちはまだプレイしてないんですか? ダメですよ、今すぐダウンロードしてください奥さん!主人公の誕生日を祝うショートストーリーは、マネの明後日の方向へ暴走するお祝いプランとドガの指輪の話で爆笑しました。やっぱりドガは全体的にかわいいしあざといです。
テオドルスもなかなかいいキャラだと思いました。
これはテオドルス、バジール、ピサロ、モリゾ、カサットのハッピーエンドも含めた完全版の発売が待たれますな。いくらだ、言い値で買うぜ。全力で宣伝もするぜ。
※本記事のゲーム画面のスクリーンショットは、全て『恋の筆触分割』からの引用です。