皆様こんにちは。赤城です。
Lucas PopeのNintendo Switch/PS4/XBOX One/PC用ゲーム"Return of the Obra Dinn(オブラ・ディン号の帰還、リターン・オブ・ジ・オブラ-ディン)"のネタバレなしレビューを書きました。
ゲームの性質上、グロテスクな画像、音声、表現が掲載されています。ご注意ください。
あらすじ
時は1802年。200トン以上の交易品を積んだ商船「オブラ・ディン号」が、ロンドンから東方に向けて出港した。その6か月後、同船は予定されていた喜望峰への到達を果たさず、消息不明扱いとなった。
そして今日、1807年10月14日早朝のこと。オブラ・ディン号は突然、ファルマス港に姿を現す。帆は損傷し、船員の姿も見えない。これを受け、東インド会社ロンドン本社所属の保険調査官が、ただちにファルマス港に派遣された。同船内を直接調べ、損害査定書を作成するために――。
「Return of the Obra Dinn」は、探索と論理的推理で展開する、一人称視点の謎解きミステリーアドベンチャーゲームである。
(出典:Return of the Obra Dinn ダウンロード版 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア))
プレイヤーは「オブラ・ディン号」に派遣された保険調査官の視点から、この船の乗員・乗客60名がどうなったのか調査します。
その際に使うのが、とある人物から託された2つの道具です。
1つは、死体の残留思念から、生前の最期の記憶、つまり死んだ瞬間を再現する、不思議な懐中時計。もう1つは、オブラ・ディン号の乗員・乗客のデータが掲載され、多数の空白のページのある本。
保険調査官はとある人物から、懐中時計を使ってオブラ・ディン号に乗っていた者60名全員の死因と殺害者(または生存している旨)を明らかにし、本の空白のページに記載して、自分に送り返してほしいと頼まれているのです。
プレイヤーは、死体から死体へと残留思念を辿り、この船で起きた惨劇と、最後まで果敢に立ち向かった人々の勇姿を追体験することになります。
トレーラー
あらすじと併せて、ぜひ本作のトレーラーをご覧ください。グロテスクな場面が多いのでご注意ください。日本語の解説音声が付いたトレーラーが見たい方はこちら(Nintendo公式チャンネル)をご覧ください。
日本語版の冒頭のプレイ動画(ファミ通TUBE)はこちら。字幕で解説が付いています。
これだけでプレイしたくなったら、迷わず購入しましょう!! お値段以上に楽しめること請け合いです。
迷っている方は以下も読んでみてください。
難易度高めな推理
本作はミステリアドベンチャーゲームという肩書きに恥じない推理の難易度の高さを誇ります。プレイヤーに与えられる情報は、
- 乗員・乗客の名前、性別、職業、出身国
- 乗客の一人であった画家による、船上生活を描いたイラスト(人物名は入っていない)
- 基本的な海運用語の説明
- 懐中時計で見られる残留思念
のみです。
残留思念には名前が表示されるわけではないので(音声と3D画像のみ)、それだけで死者の名前を特定することはほとんど不可能です。また、死因や殺害者の特定がかなり難しい場合もあります。
したがって、プレイヤーは上記の情報と若干のリアル知識をありとあらゆる方法でつなぎ合わせて、どの残留思念が誰のもので、誰の何が死因となったのかを推理しなければなりません。頼みの綱は、上記の4つを隅から隅まで眺めた結果得られる細かな情報と、プレイヤー自身のリアル知識、論理的思考力、類推力だけです。
ただし、名前・死因・殺害者の組み合わせを3人正解するごとに、その3人の情報は確定情報となったことが知らされるため、だんだんと候補となる人物の数が絞れてきます。したがって、理不尽な難易度に歯噛みするということもなく、オブラ・ディン号の謎を解くために頭脳をフル回転させている感覚を存分に楽しむことができます。
所要プレイ時間
ご参考までに、クリアまでの時間は、私の場合攻略をほぼ見ないで11時間程度でした。推理が進むと愛着が湧いてくる登場人物たち
本作は、ミステリとして面白いだけではありません。推理を進めるうちに、オブラ・ディン号の乗員・乗客一人ひとりに愛着が湧き、その生き様を味わえるようになるのも、本作の素晴らしいところです。はじめのうち、懐中時計で見ることのできる残留思念はどれも理解しがたいか、ひどく遠い出来事のように感じられるもしれません。それゆえに、残留思念に登場する人々は単なる死者の残像に過ぎず、彼らに対してなんの感情も湧かないかもしれません。
しかし、残留思念を丹念に観察し、登場人物たちの顔と名前を一致させていくうちに、プレイヤーはオブラ・ディン号の乗員・乗客ひとりひとりの性格や人間模様について徐々に理解を深めていきます。
例えば、同じ甲板員の中にも臆病な人勇敢な人、仲の良い人悪い人がいて、非常時に助け合う人もいれば逃げ出す人や裏切る人もいる、なんてことが次第に分かってきます。
その上で改めて各場面を眺めてみると、彼らが船を襲った悲劇にそれぞれのやり方で立ち向かったという事実に胸が熱くなり、その果てに死んでしまったという事実に深い切なさを感じます。
モノクロームの世界の美しさ
作品世界がモノクロ(白黒)の画像・映像で美麗に表現されていることも特筆すべきでしょう。タイトル画面は何十年も前のゲーム画面のようで、一見とっつきにくいかもしれません。しかし、船内のオブジェクトは非常に精細かつぬるぬると動きます。帆が風に吹かれて揺れる様子などは特に綺麗です。
19世紀初頭という、私たちにはちょっと縁遠い時代に思いを馳せるには、色鮮やかであるよりもむしろモノクロの方が相応しく、作品世界にじっくりと没入できると感じました。
また、モノクロであることは、グロテスク度合いの軽減にもつながっています。
本作ではほとんどの登場人物が死ぬので、血が流れるのは当たり前です。かなり凄惨な死に方をしている人もいます。カラーだったら目を覆いたくなるような場面が多かったことと思いますが、モノクロだと良い意味でリアリティが薄く、冷静に受け入れることができます。
私はカラーだったら途中で脱落していたと思います。モノクロでよかった~。
心を揺さぶる演出
ミステリADVとしての歯ごたえ、ストーリーの味わい深さ、ビジュアルの美しさに加えて、演出も独特で惹き込まれます。例えば、登場人物の台詞(呻き声などでも)が入っている場面は必ずブラックアウトし、声のみを聴くことになります(Nintendo Switch版では字幕が入ります)。その台詞を言っているときの登場人物の様子はプレイヤーの想像に任せているのです。全てを映像で表現するよりも余韻があり、この船で起きた惨劇や登場人物についてのプレイヤーの想像を掻き立てます。
また、死の瞬間の演出もとても印象的です。躍動的で勇ましく、どこか陽気ささえ感じる音楽をバックに、くっきりと明暗の付いたモノクロの場面が広がります。登場人物の表情と仕草、銃の硝煙や血の飛び散り具合などに、プレイヤーは固唾を呑んで見入ることになります。
まとめ
以上の通り、本作は- 難易度高めな推理
- 推理が進むと愛着が湧いてくる登場人物たち
- モノクロームの世界の美しさ
- 心を揺さぶる演出
をじっくりと味わうことができる、完成度の高いミステリADVです。
グロいものが苦手でなければ、ぜひ一度プレイしてみることをおすすめします。
最後までお読みくださりありがとうございました!
本作の感想・考察はこちらの記事に書きました。
本ブログでは他にもミステリ系のゲーム、小説についてレビューや感想を書いておりますので、よろしければお読みください。
※この文章は、赤城みみる(Twitter ID i14wander、はてなブログID i14wander)により執筆され、赤城みみるの所有するブログ「星を匿す雲」(http://cqs4live.hateblo.jp/)(http://cqs4live.hateblo.jp/archive)に掲載されているものです。著作権法32条で定められた要件を満たさず行われる転載は、著作権法21条に違反します。