星を匿す雲

主にTVゲーム、アニメ、歴史漫画、史跡巡りの感想を書いているブログです。基本的に【ネタバレあり】ですのでご注意ください。

【レビュー・感想】十角館の殺人:そして誰もいなくなる?新本格派ミステリの嚆矢

皆様こんにちは。赤城です。

綾辻行人作の推理小説十角館の殺人及びそのコミカライズについて紹介と感想を書きました。

前半はネタバレなしレビュー後半は、本作及び『そして誰もいなくなった』をネタバレしている感想になっております。ご注意ください。




ネタバレなしレビュー

はじめに、ネタバレなしレビューをお伝えします。



あらすじ

九州の沖合いに浮かぶ小さな島、角島(つのじま)に、大学のミステリ研の学生たちが合宿にやってきた。

この島は中村青司という天才建築家の終の棲家であり、また半年前に殺人放火事件が起こり、中村を含む島の住人全員が凄惨な死を遂げた場所でもあった。

ミステリ研の学生たちは各々が著名な推理小説作家から採ったニックネームを持っている。エラリイ、カー、ルルウ、ポウ、アガサ、オルツィ、ヴァン――彼ら7人は、殺人放火事件の舞台となったこの島、しかも稀代の建築家・中村が遺した「十角館」でこれからの数日間を過ごせることに興奮を抑えきれずにいた。

しかし、彼らは気づいていなかった。彼らと中村青司の意外な繋がりに。彼らが犯した罪の重さに。


一方、本土では元ミステリ研の青年、江南孝明が謎の脅迫状を受け取っていた。好奇心旺盛な江南は、同じく元ミステリ研の守須恭一と、偶然知り合った変わり者の男、島田潔とともに、脅迫状の真実を知るために奔走する。


ふたつの場所で物語が動き始めたとき、惨劇の幕は切って落とされる。



新本格派ミステリの嚆矢

本作は1987年に発表されました。トリックよりもリアリティや人間ドラマを重視し硬直化していたミステリ界に新たな風を吹き込み、新本格ミステリの嚆矢となった作品です。

……とは言ってみたものの、私は実は本作がそのような歴史のある作品とは一切知らずに読みました。しかも、そもそもトリックよりもリアリティを重視したミステリなんて本邦では『人間の証明』くらいしか読んだことがなかったりします(戦後の混乱に翻弄され堕ちざるを得なかった人たちの話。深い慟哭なしには読めませんでした)。なぜそんな体たらくであるかというと、元々読書の得意な方ではないのもありますが、それ以上に、私が物心ついたときには身の回りにトリック重視・ロジック重視なミステリが当たり前のように溢れていて、それらを好んで読んでいたからです。

それらのミステリが全て「新本格」と呼べるものかはさておき、『十角館の殺人』が今日のミステリの書き手たちに大きな影響を与えたことは確かでしょう。今回私が読んだのは講談社から出ている限定愛蔵版の『十角館の殺人』で、「十角館」30周年に寄せた作家のエッセイ集が付属していました。その中には私が愛読していた/いる作家さんがちらほらといらっしゃって、私はもしかしたらもう十何年も前からこの「十角館」を、綾辻行人というミステリ作家を深く知っていたのかもしれないな、と感慨深く思いました。



著名な推理小説家の名を冠した若者たちのクローズド・サークルもの

本作の何よりもキャッチーな特徴は、登場人物のほぼ全員が著名な推理小説作家と同じニックネームを持っていることです。角島側では、エラリイ、カー、ルルウ、ポウ、アガサ、オルツィ、ヴァン、本土側では、江南(コナン)、守須(モーリス)というニックネームの若者たちが活躍します。推理小説が好きなら、一度は耳にしたことのある名前ばかりで、思わず胸がときめいてしまうのではないでしょうか?

また、アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』と非常によく似たクローズド・サークルものであることも、推理小説好きの人にはたまらないポイントかと存じます。クローズド・サークルはロマンですよね。クローズド・サークルになってるのなんて当たり前じゃね? と思った人はちょっとそれ系ばかり読み過ぎですが素晴らしいことだと思います、どうかそのままのあなたでいてください、そして良質なクローズド・サークルものを私に紹介してください。

本格派のミステリに慣れている方だと、もしかしたら展開が若干読めてしまうかもしれません(何せその本家本元なわけですから)。しかし、上記のような点でも楽しめるので、最後まで面白く読めると思います。





漫画版もあるよ!

なお、つい先頃からコミカライズが始まったようです。1巻がKindleで出ていたので読みました。

いや~、正直言っていいですか。登場人物全員美形が過ぎるよ。私の中でアガサとルルウは美形枠だったので別に違和感ないんですけど、他の登場人物が……エラリイとかてっきりマッシュヘアの鼻持ちならない雰囲気イケメンだと思ってたのになんでこんな正統派美男子になっとんねん。あとさ、江南君はなんで女の子になっちゃってんのぉ!?

私的にはその2点が若干気になるところではありますが、肝心のお話の内容は原作に忠実でありながら現代の若者の実情に沿うようにアレンジもされているので、既存のファンも満足させつつ新たなファンも獲得しうる良質なコミカライズなのではないかと思います。表紙・絵柄買いしても後悔はまずしないでしょう。






『十角館の殺人』及び『そして誰もいなくなった』を読んだことのある方は、よろしければこの後のネタバレあり感想も覗いていってください!
































※この下からネタバレあり感想が始まります。『十角館の殺人』及び『そして誰もいなくなった』未読の方はご注意ください。





























ネタバレあり感想

ネタバレあり感想です。まずは原作から。


  • 原作

    • 『そして誰もいなくなった』を彷彿とさせたが、実際は
      「どうせオマージュで終わりだろ?」と思った読者の裏をかいた感じでした。

      『そして誰も~』では犯人が最後に犯行を告白した紙を入れた瓶を海に流して自殺をして終わります。一方、『十角館』の犯人は瓶を最初に流して、最後に偶然浜に戻ってきたそれを探偵役である島田に渡して生存します。オマージュ元との対比の仕方が味わい深いなあと思いました。

      また、『そして誰も~』では犯人はクローズド・サークルの内側に最初から最後までいます。しかし、『十角館』の犯人は実はクローズド・サークルを自由に出入りできる立場にあります。『そして誰も~』の先入観があったので終盤で一瞬、ああやっぱりね、でもちょっと釈然としないような、ってなりました。そして守須の「ヴァン・ダインです」を見たときに「えぇ~、ちょっとずるくない!?」と言ってしまいました(笑)。

      あと細かいところですけど、医者であるポーが共犯者というのも疑いました。全然違いましたね、ハイ。

      『十角館』は『そして誰も~』を知っていると楽しく読めますね。『十角館』の後で『そして誰も~』を読むのもまた楽しそうです。

      以上のように、『そして誰も~』と繋がっている部分が多いので、一瞬ネタバレなしレビューで『そして誰も~』とセットで読むといいよ! と書こうかなとも思ったけど、楽しさが半減してしまいそうなのでやめました。まあ両方ネタバレしてると明記している時点で気取られてしまう可能性がありますが。

    • 館の仕掛けは関係ない、ノックスの十戒に結構忠実
      「新本格派」というと、建物のからくりを存分に使い、ノックスの十戒も丸っきりガン無視するイメージがあったのですが、『十角館』は全くそんなことはありませんでした。ちょっと拍子抜けしました。

      館の仕掛けなんて出てくるのは終盤、犯人のトリックとは全く関係がなく、別に犯人が意図して発見させたわけでもない。個人的には建物のからくりを使ったトリックっておどろおどろしい感じがして大好きなので、あのドロドロの腐乱死体も何かしら今回の事件に関わっていてくれと願ったけどそんなことはなかったぜ。残念。

      ノックスの十戒は7、10以外は守られていたんじゃないでしょうか。私は十戒の大部分は破ってもいいと思ってますけど、それでも1と5だけは守られるべきと常日頃から思っているので、中村青司が本当に犯人だったらどうしようなんてハラハラしていました。どうでもいいですがヴァン・ダインも「ヴァン・ダインの二十則」なんてのを提唱してるんですね。知らなかった。


  • 漫画版
    現時点でまだ1巻が出たばかりなので詳細な感想は書いていません。

    • オルツィかわいすぎワロタ
      私たちイケてない女代表格のはずのオルツィがこんなにかわいいはずがないと思いました。コミカライズ恐ろしや。まあ、あれだけ美形揃いで一人だけパッとしないってのもアレですしねぇ……美形の方が読者の受けがいいんでしょうし……でもやっぱりイケメン嫌いの私としては、美形はアガサ、ルルウ、百歩譲ってエラリイくらいであとは普通の容姿が良かったなあと思います。。

    • 中村千織の死の経緯とミステリ研の人々の意識が変わった?
      原作では、千織は飲み会でお酒を強要されて急性アルコール中毒で死亡したことになっていて、オルツィ以外のメンバーはそれを忘れています。

      一方、漫画版では、千織はたぶん海難事故で亡くなって、少なくともエラリイには罪の意識があるっぽい描写がなされています。恐らく、救命胴衣の奪い合いになり千織があぶれて死んでしまったが、メンバーたちの行為は「緊急避難」と見なされ罪には問われなかったといったところでしょうか。

      原作だと島メンバーのうちオルツィ以外に対してはどうしても悪印象を抱かざるを得なかったけれども、漫画版では上記の改変を加えることにより、島メンバーにも感情移入や同情の余地ができたように思います。良い改変ですね。

      もしかしたら彼らの運命も多少変わってくれないかなあ、例えば誰か犯人に気づかれずに生き残ったり、と思ったりもするのだけど、そうすると原作の最後の方の展開の意味がなくなってしまいますよねえ。う~ん、難しい。