皆様こんにちは。赤城です。
小野不由美の推理・サスペンス小説『黒祠の島』について紹介と感想を書きました。
前半はネタバレなしレビュー、後半はネタバレしている感想になっております。ご注意ください。
ネタバレなしレビュー
はじめに本作のネタバレなしレビューをお伝えします。あらすじ
探偵事務所の調査員・式部剛の仕事仲間である葛木志保が失踪した。彼女の消息を追って式部が辿り着いたのは、風車と風鈴に彩られた奇妙な島だった。この島に深く根付いているのは、明治以降の国家神道から外れた「黒祠」の信仰。風車と風鈴は「まじない」のようなものだという。
しかし、その「まじない」は、いったいなんのために行っているのか。島民たちは排他的で、誰も式部に本当のことを語ろうとはしない。
島のことを調べるうちに、式部は、葛木が数日前に無残な他殺体となって発見されていたことを知る。それはどうやら、過去にこの地で起きた殺人事件と関わりがあるようだ。式部は葛木の無念を晴らすため、彼女の死と過去の殺人事件の真相究明に乗り出す。
宗教の空恐ろしさを実感させる
「黒祠」という禍々しい響きの言葉から連想して、島民たち全員サイコパスな血みどろサスペンスか!? と予想していましたが、全然違いました(笑)。そういうセンセーショナルな雰囲気を求めて読むと、ちょっと期待外れになってしまうかと思います。島民はサイコパスではない、ごくごく普通の人々です。ただ、彼らの心の拠り所は黒祠の信仰にあり、信仰によって言動を縛られています。その描写が秀逸でした。
最近プレイした『レイジングループ』というゲームに少し似ているなあと思いました。あっちはセンセーショナルな血みどろサスペンスですけれども。レビューを書いているのでご興味があったらどうぞ。
作り込まれた伏線と震撼の結末
黒祠の信仰に翻弄される人々の描写もさることながら、本作は伏線の効き具合も抜群です。「なるほど、そう来たか!」と膝を打ち、背筋にゾッと寒気が走る機会に事欠きません。さらに、終盤で明らかになるとある事実には、それまでの描写の積み重ねも相まって、鳥肌の立つようなおぞましさを覚えます。
果たして、最後の最後の展開まで予想できる人がいるのかどうか……。私はもちろん、予想できなくて死ぬほど驚き、震え上がりました。
一部、話のテンポが速いところがある
些細なことなので、集中して読んでいればそこまで気にならないのですが。一部の場面で話のテンポが速いと感じることがありました。特に後半部分でやや露骨に出ていて、ちょっと惜しいなあと思いました。
読んだことのある方は、よろしければこの後のネタバレあり感想も覗いていってください!
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※この下からネタバレあり感想が始まります。未読の方はご注意ください。
ネタバレあり感想
以下では本書についてのネタバレあり感想をお伝えします。- 式部が積極的すぎる件
歓迎されていないと分かっているのに、よくあんなに躊躇いなく聞き取り調査に行ったり廃屋に踏み込んだりできるなあ。そこは探偵事務所の人ってことで慣れている設定なんですかね。そうじゃないといつまで経っても話が進まないしね。そうは言っても廃屋に一人で入るの怖くない? ここで絶対何かひとつホラーっぽい出来事が起こるでしょ! と思ってたのに結局何も起こらなくて残念でした。『残穢』の読みすぎですね。
- 泰田も積極的すぎる件
式部が積極的なのはまだ分かりますが、泰田が式部の相棒みたいになっているのは違和感がありました。誰かに支援してもらわないとそもそも島に居残り続けることができないから仕方ないけど。でも、泰田が式部の相棒的な存在になっていたことで、読者は終盤の真犯人=泰田説に一時心を搔き乱されるわけだし、その違和感も計算のうちなのかもしれませんね。
- 案外フレンドリーな村民たち
一度懐に入ると案外なんでもサクサク教えてくれますよね。それで、ちょっと話のテンポが速いと感じました。個人的にはこういう異端者の領域に乗り込む系の作品の雰囲気は徹頭徹尾ギスギスしていてほしいので(笑)、最後まで塩対応でいてほしかった。特に、博史、明寛あたりはもう少し性格を悪くしても支障はなかったんじゃないかな。
まーあまりウダウダしてても飽きるし推理物として成り立たないので、あれくらいでちょうどいいのだろうとは思いますが。
- 五行説に基づくカンチ様の考察が面白い
五行説は全然詳しくありませんが、意識はしていなくても、きっと日本人の風習や心象に深く根付いているものなのだろうなあ、と実感させられました。ちょっと勉強してみたくなりました。ちなみにカイチはペルソナ4で履修しました(笑)。色々な技を覚えられるので便利でしたね。
- 浅緋はサイコキラー
ぞわっとしました。カンチ様が誰彼構わず殺す神から罪ある者のみを罰する神になったというのは、「罪人が出たときのみ自分の欲望(殺人)を叶えることを許された」という意味合いなのですよね。
だから、事件が明寛によって闇に葬られてしまうのは困るから、式部をわざわざ呼び寄せて話を聞いて、下手人が誰であるかを突き止めたんですね。ヒエッ……。
- 杜栄の苦悩が描かれていない
浅緋に真犯人暴露とほぼ同時に惨殺されてしまったので、ほとんど話を聞けずじまいなのが残念でした。そこは想像したけりゃしてね、ということでしょう。しかし、カンチ様の仕業に見せかけるために実の娘(と思われる女性)の局部まで徹底的に破壊する人の心中なんて想像できないし、したくないよね……。あっ、それで小野先生もあえて描かなかったのか。なるほどな~。
- まさかの入れ替わりからのハッピーエンド
薄々、葛木はなんだかんだ言って生きているのではないかとは考えていましたが、そういう方向で生きているとは思いませんでした。本当に何気ない感じで叙述トリック仕込んでるのすごいな。この作品、コミカライズも出てるんですよね。この部分がどう描かれているのか気になるところです。
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