星を匿す雲

主にTVゲーム、漫画、小説、史跡巡りの感想を書いているブログです。基本的に【ネタバレあり】ですのでご注意ください。

【レビュー・感想・考察】三体:事前情報一切なしで読むべき傑作SF

皆様こんにちは。赤城です。

劉慈欣のSF小説地球往事(三体)』三部作第一部の『三体』について紹介と感想を書きました。

前半はネタバレなしレビュー後半はネタバレしている感想・考察になっております。ご注意ください。




ネタバレなしレビュー

はじめに本作のネタバレなしレビューをお伝えします。



事前情報一切なしで読むべき傑作SF

正直、本作は事前情報一切なしで読んでほしいです。結末まで全てを知り尽くしてもなお面白さが衰えず、何度も読み返したくなる作品なのですが、それでもやはり、作者が本作に仕込んだネタを存分に味わうには、初見では何も知らずに読んだ方が良いと思うからです。

未読かつネタバレOK派の方のために、これ以降では若干のあらすじとオススメポイントの紹介を行います。

未読かつネタバレNG派の方は、本記事など記憶の彼方に抹消して今すぐ『三体』を買うか借りるかしてください

そして全てを読み終えて何か色々な感情が爆発しそうになったら、ネットにアップされている感想を漁ったり、ご自分で感想を書いたり、同志を募って本作について語り合う会を開くなどして、今後の展開を一緒に待ちましょう。ちなみに本記事の後半にも感想が書いてあるので、よかったら思い出してあげてください。


公式系サイトのあらすじにも注意して!

「でも、あらすじくらいは知りたいわ~公式系のサイトなら大丈夫っしょ。見てみよ~」と思った方に警告です。

私が確認した限りでは、ハヤカワ・オンラインの本書の詳細ページダ・ヴィンチのコミカライズ版紹介記事AFP通信の本作のヒットについて伝える記事に書いてあるあらすじは完全に一部のネタをバラしており、モロにアウトでした。ついでにWikipediaもダメでした。逆に、Amazon紀伊国屋書店などのオンライン書店の内容紹介はセーフでした。しかし私がセーフと思ってもあなたにとってセーフとは限らないのがネタバレNG界隈の難しいところですよね。

つまり、どこに地雷が潜んでいるか分からないので、ネタバレを踏みたくないなら何も見ずに買って読んだ方が吉ということです。

以下からあらすじその他を書いていきます。ネタバレNG派の方はご注意ください。



あらすじ

中国の文化大革命期、共産主義思想にそぐわない事実を主張する科学者たちは、軒並み弾圧、洗脳、粛清されていった。葉文潔の父もそのうちの一人であった。

自らも物理学者である葉文潔は、反逆者の烙印を押されながらも父と同じ轍を踏むことは免れ、辺境の軍事施設に研究者として送り込まれた。葉文潔はただそこで静かに生涯を終えられるようにと願い、命じられるがまま極秘の研究に取り組むことになった。


数十年後、ナノテクノロジー素材の研究者である汪森はとある会議に招かれ、著名な科学者たちが謎の自殺を遂げていることを知らされた。一人の物理学者の遺書にはこう書かれていた。すべての証拠が示す結論はひとつ。これまでも、これからも、物理学は存在しない

汪森は、科学者たちの自殺に関し、陰で糸を引いていると思われる「科学フロンティア」なる団体に潜入することを了承した。すると間もなく、現代科学では説明のつかない怪奇現象が汪森の身辺で起こり始めた。汪森の撮影した写真の中央に見覚えのない数字の列が現れるようになったのだ。それは現実の時間経過に従って次第に減っていくように思われた。やがてそれは写真ではなく、汪森自身の視界に映り込むようになった。

数字が0になったとき、自分の身には何が起こるのだろうか――恐怖に駆られ、「科学フロンティア」の構成員の一人に接触した汪森は、「三体」というVRゲームの存在を知る。怪奇現象の解決の糸口にならないかと考えてゲームを始めると、そこには現実の中国古代史と虚構の混じり合った奇妙な世界が広がっていた。



オススメポイント

本作の内容は、主に3つに分けられます。


  1. 緻密かつ壮大な伏線が張り巡らされたSFサスペンス

    本作の一番の要です。汪森と葉文潔を中心に、科学者たちが物理学の知識を駆使して難解な課題に立ち向かっていくさまが描かれています。

    ホーガンの名作SF『星を継ぐもの』を思い起こさせます。『星を継ぐもの』的な話が好きな人なら本作は買いでしょう。


  2. 文化大革命期の中国で激動の半生を送った女性、葉文潔に焦点を当てた人間ドラマ

    人間の怖さと弱さと強さをしみじみ感じられます。人間ドラマと言っても、葉文潔自身が諸事情からかなり醒めた人になっているためお涙頂戴的な場面が全くないのが個人的には嬉しいです。描写は淡々としており、どのくらい登場人物に感情移入するかは読者の裁量に任されています。


  3. VRゲーム「三体」の不気味で斬新な世界に迷い込むホラーアドベンチャー

    不条理でおぞましい、人情の欠片もない乾ききった世界ですが、怖いもの見たさでつい覗き込んでしまいます。クトゥルフ神話諸星大二郎の漫画に近いです。それらの作品が好きな人なら背筋をゾクゾクさせながら読み進められること請け合いです。

    また、あらすじにも書いたように、このホラーアドベンチャーの世界は虚構混じりの中国古代史ワールドなので、中国古代史が好きな人も読んでみると楽しい、かもしれません。ただ、時代考証が恣意的に滅茶苦茶になっているのと、若干グロい場面があるので、そういうのが苦手な人は注意が必要です。


以上の通り、舞台も登場人物も適宜変化するため飽きが来ない上に、これら、SFサスペンス、人間ドラマ、ホラーアドベンチャーのどれを取っても、単独で発表しても評判になるだろうと思うほど文句のない仕上がりになっています。実際、VRゲーム「三体」を描いた場面の一部が短編として発表されたこともあるらしいです。もちろん、それぞれの要素は最終的にひとつの結論に見事に収斂されていくので、本筋に関係のない話を延々聞かされるんじゃないだろうな!? という心配はご無用です。



あなたがこの、世に二つとない傑作SF『三体』を読み、私と同じようにファンになってくださることを願ってやみません。







読んだことのある方は、よろしければこの後のネタバレあり感想も覗いていってください!
































※この下からネタバレあり感想・考察が始まります。未読の方はご注意ください。





























ネタバレあり感想

以下では本書についてのネタバレあり感想をお伝えします。



  • VR三体世界がエグい・グロい・斬新な発想の三拍子だった件
    人間が脱水して絨毯みたいになるとか、失敗したら鍋茹での刑とか、人力コンピュータとか。高熱出して寝込んでるときに見る悪夢みたいで……

    最ッッ高だぜ!!!!(アへ顔ダブルピース)

    私、こういう理屈も感情も一切通じない不気味な話が大好きなのです。普段は理詰めの堅苦しい世界に生きているからでしょうか。VR三体世界のバリエーションをもっといっぱい見てみたいんですけど、今後はもう出てこないですかね~。短編でいいから出してほしいなぁ。


  • VR三体世界の周王、紂王、伏羲は『封神演義』ファンには衝撃的
    突然ですが、私は封神演義』のファンです。原作の小説と、藤崎竜の漫画版、両方の(参考記事:【スキあらば自分語り②】封神演義に人生狂わされた話 - 星を匿す雲

    だからこのVR三体世界の一番最初の章も、周王と名の付いた人が出てきたとき、「やったー『封神演義』の世界じゃん! これは普通に中国古代史をなぞって紂王討伐に行き着く流れか!? ときめきが止まらないぜ!」と思いきや、なんか従者が脱水し始めるし、謎のピラミッド立ってるし、紂王の隣には伏羲がいるし、しまいには伏羲も周王も粛々と大鍋で煮られて死ぬしで、思ってたのと全然違う。カオスを極めた話に頭が混乱し、大変面白かったです。


  • 文潔さんが科学フロンティアの総裁だったなんて!
    汪森視点の章で一種の清涼剤の役割を果たしていた文潔さんが科学フロンティアの総裁として登場した瞬間は目玉をひん剥きました。智子の存在が明らかになったときよりも驚いたかもしれない。それまでの流れで、暗い過去を抱えていても無条件に良い人だと信頼してしまっていたのです。

    そんなわけないんですよね。彼女の抱えた闇がどんなことをしても晴れないことはたびたび示唆されていました。それに、文潔さんが単なる良い人のままだと、彼女のこの物語の中での役割がイマイチぼんやりしてしまう気がしていました。科学フロンティアの総裁であり、三体世界を地球に呼び寄せた張本人であることで他のメインキャラである汪森や史強との釣り合いが取れたのではないかと思います。

    第二部以降では、彼女は三体世界の味方のままでしょうか、それとも地球勢力に加勢するのでしょうか。娘の楊冬が亡くなったことは悔いているようだったので(というかそもそも彼女は科学者の自殺には関与していないと思う)、最終的には地球勢力の味方になってもらいたいところです。


  • 目まぐるしく展開されるSF要素を満喫
    ゴースト・カウントダウン、三体問題、地球外生命体、人力コンピュータ、ナノワイヤ作戦、陽子内宇宙、陽子内宇宙の多次元展開、智子……。こんなにもたくさんの胸熱SF要素が詰め込まれている小説は初めて読みました。なるほど、ページ数が多くなるのも納得できます。でもページ数なんか気にならないくらい面白かったです。

    特に胸熱だったのは陽子内宇宙智子です。物理学の知識がないので科学的にあのような現象が妥当かどうかは全く分かりませんが。


  • 陽子内宇宙というロマン
    陽子ひとつひとつの中に実は宇宙がある、というのはすごいロマンです。

    だって、針の先ほどのちっぽけな単細胞生物一匹でさえ、数えきれないほどたくさんの原子の結合によって構成されてるんですよ。その原子の中のさらに陽子の中にひとつずつ宇宙があるなんて、気の遠くなるような話じゃないですか。

    漫画かアニメでも同じような描写を見たことがあるんですけど、題名を忘れてしまいました。陽子内宇宙って、ロマンがあるわりに採用している作品がほとんど存在しない気がします。この概念を表すSF用語も聞いたことがありません。もしご存知でしたら教えてください、キーワード検索して作品を漁りたいので。


  • 智子に大興奮
    智子は、三体人がとある陽子内宇宙を多次元展開して改造し、自分たちの道具にしたという理解で合っているでしょうか?

    地球人より多次元の存在だから地球人のやることはなんでもお見通し、ゴースト・カウントダウンも宇宙の明滅(見せかけ)も粒子加速器の観測データの改竄も軽々とやってのけちゃう、というところに大興奮しました。私たちにとっての二次元が、智子にとっての三次元なのですね。そりゃ敵わんわ、これから地球人はどうなってしまうんだ! と戦々恐々としております。


  • 1379号監視員の切なさ
    年老いて子供も作れなかった自分に残された淡い希望、遥か彼方にあるパラダイスを失いたくない、守らなければいけないという気持ちが、非常に胸に沁みます。それは決して地球に対する愛情などではなく、どちらかというと監視員の自己満足のための利己的な感情なのですけれども、だからこそ親しみやすく、愛おしく感じられます。

    彼がメッセージを受け取って返信するときの一連の描写が文潔のそれと意図的に重ねられているのがまた良い味わいを出していますよね。

    なんとなく、いつか文潔と彼もしくは彼の子孫がもう一度言葉を交わす日が来るのかもしれない、そうなるといいなあ、と思いました。




ネタバレあり考察

続いて、本書についてのネタバレあり考察です。第二部以降で答え合わせできると楽しいな~なんて思っています。



  • 智子には思考は見通せない?
    地球人の「やること」はなんでもお見通しでも、言葉として出力しない「思考」はお見通しではないんじゃなかろうか、と『三体』を読んだ友人とは話し合っております。

    例え頭の中を覗けたとしても、そこで生じているのは単なる電気信号のやり取りに過ぎず、私たちの脳が理解可能な言葉として外界に出力しない限り思考を読み取ることは不可能だ。というのが友人の理論です。ちなみに私はそこまで考えつかなくて友人の話に乗っかっているだけです(笑)。


  • 三体人はどのような姿をしているのか
    これも友人と話し合った議題です。

    VR三体世界では人間を三体人に見立ててストーリーが進むので、なんとなく人間っぽい姿を想像しがちですが、実際は似ても似つかない姿なのかもしれません。監視員の場面で「2本の指」という描写が出てくるので、少なくとも指の本数は人間とは異なるでしょう。

    友人は、三体人は脱水して厳しい環境下でも生き延びるという点からクマムシ的な何かではないかと言っています。真相がどうなるかは別として、クマムシがモデルになっている可能性は大いにありますよね。

    私はなんとなく彼らは昆虫っぽい気がしています。


  • 三体人の大きさ
    これもVR三体世界の影響で人間と同じくらいの大きさだろうと考えがちですが、実はずっと大きかったり小さかったりするのかもしれません。

    う~ん……大きいのは嫌だけど、小さいとお話にならないかもなあ。というか、地球の人類についての基本的な情報は恐らく最初の紅岸基地からのメッセージで発信しているから、それを読んで勝ち目があると踏んだからこそ大船団を派遣したと思うのですよ。

    したがって、人間と同じくらいかそれよりも大きい、もしくは、小さくてもすごい兵器を持っているとか、微生物ばりに小さくて人間の体内に侵入して滅茶苦茶にできるとか、そういう感じじゃないかなと思います。


  • 三体人の寿命
    70万~80万時間とのことです。年単位に換算したところ、80年~90年くらいでした。医療技術が発達して延びたのか、それとも素の寿命なのかは判然としませんね。


  • 三体人の生殖と1379号監視員の行方
    ざっくり言うと、異性と「結合」することで自分自身の存在は消失し、自分と異性の記憶を一部受け継いだ子供たちが複数人生まれるらしい。記憶を受け継ぐってところが面白いですね。人間で想像したらちょっと気持ち悪くなってしまいました。

    1379号監視員は、無罪放免になった後、異性と結合したかもしれませんね。その子供たちは彼の思想を受け継ぎ、地球を守るためのレジスタンス活動を三体世界で密かに繰り広げているかも。元首が地球を侵略することを発表したときも相当な反対の声が上がったらしいので、もしかしたら汪森視点の現在では一大勢力になっていたりして。








最後までお読みくださり、ありがとうございました。

続編である『三体II 黒暗森林』と『三体III 死神永生』の感想はまだ書けていませんが、先に公式スピンオフ(元二次創作)である『三体X』のレビューと感想を書きましたので、よろしければ覗いていってください。